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近年、熱回収は廃棄物処理の分野において注目を高めています。
一般の方は聞く機会が少ない言葉ですが、二酸化炭素(CO2)の排出や省エネなどの環境問題と関連しています。
そのため、熱回収に関する廃棄物処理施設の認定制度もあるなど、国も促進を図っている方法です。一方で、まだ課題のある分野でもあります。
この記事でわかること
- 熱回収とは何か
- 熱回収のメリット面
- 熱回収の活用事例
- 熱回収における今後の課題
熱回収とは?
熱回収とは、廃棄物を焼却する際に発生した熱エネルギーを回収して、有効活用する方法です。
廃棄物を焼却する際には大量の熱と二酸化炭素が発生しますが、その熱を回収してエアコンや冷蔵庫の冷却や温水プールの加熱、発電などに使えるのです。
廃棄物の焼却後に発生した熱は、焼却炉の温度が下がっていくのと同時に空気中に少しずつ放出されています。
一方、ボイラーや暖房器具などを使用する場合、石油や石炭といった資源を使って熱を発生させています。熱は不要なものとして放出されている一方で、化石燃料などを消費して作り出しているのが現状です。
熱回収により、廃棄物の焼却で発生する熱を放出せずに回収して再利用できるため、新たな資源を消費せずエネルギーが作り出せます。
サーマルリサイクルとの違い
サーマルリサイクルは別名「エネルギー回収」や「熱回収」などとも呼ばれており、多くの場合、同義で使われます。
しかし厳密にいうと、サーマルリサイクルと熱回収は完全に同じ意味であるとはいえません。サーマルリサイクルは、廃棄物の熱エネルギーを回収して再利用するプロセス全般を指します。
これには廃棄物の焼却による熱エネルギーの回収だけでなく、その熱を利用して電気や蒸気を生成し、それをさまざまな用途に活用する過程も含まれます。
一方で熱回収はその名の通り、廃棄物の焼却などによって生じた熱エネルギーを回収する行為を指し、この熱エネルギーをどのように活用するかは含まれていません。
つまり、サーマルリサイクルは熱回収を含む、より広範な概念です。そのため、熱回収はサーマルリサイクルの一部分といえます。
熱回収のメリット
熱回収にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
本項では資源の消費や運転コストの削減、温室効果ガスの削減や廃棄物の有効活用、埋め立て量の削減など5つのメリットについてわかりやすく解説します。
限りある資源の消費を減らせる
廃棄物を処理する際に使用する燃料の多くは、石油や石炭などの天然資源です。燃料の代わりに熱回収によって回収した熱を再利用すれば、それらの天然資源の消費を減らせます。
たとえば、多くの天然資源を燃やして稼働している火力発電に利用すると資源を節約する効果は高く、排出される二酸化炭素(CO2)の削減にもつながります。
運転コストを削減できる
熱回収が運転コストの削減につながる理由は、エネルギー購入コストの削減や設備効率の向上、メンテナンスコストの低減ができるからです。
再利用された熱によって外部からエネルギーを購入する必要が減少し、暖房や冷房、温水供給などに必要なエネルギーを熱回収によって賄えます。
そのため、電気やガスなどのエネルギー購入費用が削減可能です。また、工場やビルのエネルギーの使い方の効率が良くなります。
普段捨てられてしまう熱を再び使えるようにし、必要なエネルギーを減らせるからです。結果として、同じ仕事をするのにいつもより少ないエネルギーで済みます。
さらに熱回収システムは、従来のエネルギー生産設備に比べて故障が少なく保守やメンテナンスが容易なケースが多く、長期的に見たときの運用コストの削減につながります。
温室効果ガスの発生を削減できる
廃棄物となったプラスチックを放置した場合、問題となるのは劣化によるメタンガスの発生です。メタンガスは二酸化炭素(CO2)に比べて温室効果が非常に高く、地球温暖化の大きな原因にもなっています。
熱回収によって、メタンガスのような強力な温室効果ガスの発生量を削減し、さらに二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス全般の排出も減らすのが可能です。
再資源化が難しい廃棄物を有効活用できる
プラスチックをリサイクルする方法は、大きく分けて3つあります。
熱エネルギーとして利用する方法の他に、プラスチックを再度プラスチック製品の原料とするマテリアルリサイクル、化学的に分解して化学製品の原料とするケミカルリサイクルです。
プラスチック廃棄物のなかには再資源化が難しいもの、洗浄や分別が困難なお菓子の袋や、洗ってもにおいが取れないなどの理由で再資源化にコストがかかるものがあります。
そのような再資源化が難しい廃棄物を燃やし、有効活用できるのが熱回収です。またケミカルリサイクルと比較して低コストな点もメリットです。
廃棄物の埋立量を削減できる
リサイクルできない廃棄物は埋立処分されます。しかし、メタンガスを発生させるプラスチック製品のような埋立処分が困難なゴミもあります。
また近年、ゴミの増加により問題視されているのが、埋立処分できる土地の不足です。ゴミを焼却処分しながら廃熱を利用する熱回収をおこなえば、廃棄物の埋め立て量の削減ができ、埋立処分場の不足問題の解決につながるでしょう。
熱回収の活用事例
熱回収は具体的にどのような場面で利用されているのでしょうか。
排気ガスの利用方法や廃棄されている熱の再利用、ゴミ焼却時の熱を利用した発電など活用事例をご紹介します。
ボイラーを沸かす際の排気ガスを利用する
暖房などに使われるボイラーは、水に熱を加え、温水や蒸気を作り出します。
そのボイラーの効率を上げるために使われるエコノマイザーは、ボイラーを沸かす際に発生する高温の排ガスを利用して給水予熱をおこなう熱回収方法です。
回収されたエネルギーはシステム内のほかの部分で利用したり、地域の暖房施設に売却したりできるため、エネルギーの無駄をほぼなくして燃料費を削減できます。
工場などで廃棄されている熱を再利用する
冷蔵庫や冷暖房などに用いられるヒートポンプは、代表的な熱回収の事例です。なかでも有効活用されているのが産業用ヒートポンプです。
たとえば、工場では生産工程での冷却や加温・乾燥・殺菌・洗浄などで廃棄される大量の熱があります。その熱エネルギーを回収して、再度温水や熱風に利用し、循環させることで大幅なコスト削減につながります。
省エネ効果が高く、廃熱にともなうエネルギーコストの削減、CO2排出の削減などの実現が可能です。
ゴミ焼却時の熱で発電する
全国のクリーンセンターのなかには、ゴミを燃やした際に発生する熱を利用した、ゴミ発電をおこなっている施設があります。
化石燃料を燃やして発生した熱を利用する代わりに、ゴミを燃やしたときに発生する熱を使うため、購入する電力量や燃料費の削減が可能です。
東京23区の一部や神戸市の清掃工場では、ゴミ発電によって生み出した電力を施設内で使用し、余った電力は電力業者へ売却しています。
またゴミ発電で生み出された電力を、近隣の温水プールや博物館などで有償または無償で使用されているケースもあります。
データセンターからの排熱を再利用する
データセンターとは、コンピューターシステムや関連する通信設備、ストレージシステムなどのIT機器を集中的に設置して管理する施設です。
データセンターでは、サーバーやネットワーク機器が連続して動作するため、大量の電力消費にともないたくさんの熱が発生します。
この排熱を効率的に利用すると、エネルギーの再利用が可能になり、データセンターにおいて運用コストの削減や環境への負担軽減につながるでしょう。
排熱の再利用方法は、建物の暖房や冷却、温水供給など近隣施設の暖房や農業の温室で利用します。
自動車の排気ガスの熱を回収する
自動車のエンジンは燃料を燃焼させて動力を生み出しますが、この過程で大量の熱が発生し、その多くは排気ガスとして無駄に放出されてしまいます。
この無駄になっていた熱エネルギーを有効利用できるのが、自動車へ導入する排熱回収システムです。たとえば車両の燃費を改善したり、追加の電力を生成して車内の電子機器を動かしたりできます。
この技術は特にハイブリッド車や電気自動車などの先進的な自動車技術での利用が増えています。
蒸気タービンからの排熱を活用する
蒸気タービンは発電所や工場などで使用される装置で、高温高圧の蒸気を使ってタービンを回転させ、その機械的エネルギーを電気エネルギーに変換するしくみです。
このプロセスで、蒸気からエネルギーを取り出したあとに低温の蒸気(排熱)が発生します。通常、この排熱の多くは空気中に放出されますが、熱回収システムを利用することで再利用できます。
たとえば、排熱を利用して他の工業プロセスでの加熱や建物の暖房、給湯などに使用可能です。
廃棄物熱回収施設設置者認定制度とは?
廃棄物熱回収施設設置者認定制度とは、廃棄物焼却時の排熱回収をより促進するための制度で、平成23年4月に施行されました。認定を受けるためには要件があり、認定後は5年ごとの更新を受けなければなりません。
廃棄物熱回収施設設置者として認定されるメリットは3つあります。
1つ目は廃棄物の保管日数の延長です。廃棄物の保管可能な日数は通常14日ですが、認定業者は21日に引き上げられます。
2つ目は定期検査の義務が免除される点です。通常、処理業者は5年ごとの定期検査を受けなければなりませんが、認定業者になると免除されます。
3つ目は処理委託の増加が見込まれる点です。認定業者として公的に評価されるため、環境問題などに対する意識が高い廃棄物排出業者からの委託の増加が見込まれます。
熱回収における課題
廃棄物の焼却には、ダイオキシンなどの有害物質を含むガスや二酸化炭素(CO2)が排出されます。そのため、廃棄物自体の発生や有害物質の排出を抑え、熱回収効率を向上させなければなりません。
また、熱回収システムを導入する際にも課題があります。最初にかかる費用が高額になるため、小規模な施設では導入の障壁となるでしょう。
熱回収システムの設計や導入、運用には専門的な知識が必要で、技術的な複雑さがある点も課題です。既存の施設にシステムを統合する際には、技術的な調整が求められます。
さらに熱回収で利用できる熱は厳しい条件があり、工場やビルから出る熱のなかには、使えないものがあります。
使える熱は一定の温度が必要だったり、特定の「質」が求められたりするため、熱回収をできる場所が限られてしまうのも課題です。
まとめ
熱回収とは、廃棄物を焼却する際に発生した熱エネルギーを回収して、有効活用する方法です。
運転コストや温室効果ガスの削減や廃棄物の有効活用など多くのメリットがあり、熱回収ができる処理施設の認定制度も導入されています。
ゴミ発電や自動車の排ガス利用など、身近な場面でも熱回収が利用されています。しかし有害物質や二酸化炭素の排出、導入時のコストが高額な点や専門的な知識が必要で技術的な複雑さがある点などは、今後解決しなければならない課題です。