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ゴミ屋敷は、悪臭やネズミ、害虫の発生などにより近隣住民に影響が及ぶだけでなく、ボヤや放火などの犯罪の発生リスクが高まるため、社会的な課題の1つです。
本記事では、ゴミ屋敷条例や条例に付随することを解説していきます。
この記事でわかること
- ゴミ屋敷に対応できるゴミ屋敷条例
- 環境省の調査による全国の自治体の条例制定の実態
- 条例が制定されていない自治体での対策
ゴミ屋敷条例とは?
ゴミ屋敷条例とは一部の自治体(市役所)が制定している条例で、住宅や敷地内に大量のごみを放置し、他人の生活環境に悪影響を及ぼす「ゴミ屋敷」の問題に対処するための規則です。
この条例は、ゴミ屋敷の所有者や管理者に対して清掃や撤去を命じられるようにするもので、放置されたゴミが衛生上の問題や近隣住民の生活環境の悪化を引き起こすことを防ぐ目的があります。
具体的な内容は自治体ごとに異なりますが、以下のような状況が該当する場合、ゴミ屋敷に関する規定が適用される可能性があります。
- 有害危険物質が放置されている
- 大量の廃棄物があり保管状態が悪い
- 感染症を媒介するねずみやゴキブリ、はえなどの衛生害虫が発生している
- 火災発生のおそれがある
- 悪臭が発生している
- 通路等に大量の廃棄物が堆積しているため通行できない
- 大量の物を収集し住居やその敷地に堆積させ、衛生上や防災上、防犯上の支障が生じている
ゴミ屋敷で困っていると近隣住民より連絡があった場合は調査が実施され、行政により適切な指導がおこなわれます。
自治体(市役所)の対応はゴミ屋敷条例で定められている
現在、ゴミ屋敷に関する法的な枠組みは存在しておらず、法律ではゴミ屋敷に対する規制はおこなえません。
しかし、地域社会の公共利益を守るために、ゴミ屋敷に対応するための条例を制定する自治体(市役所)が増えてきました。条例が制定されている自治体では、行政が介入し規制や支援をおこなえます。
ゴミ屋敷条例は自治体によって内容や名称が異なる
全国的に統一された「ゴミ屋敷対策条例」が存在するわけではありません。各自治体で名称や内容は異なり、多くの自治体では「いわゆるごみ屋敷対策条例」と表現されています。
自治体が導入する条例の名称には不適切なためか「ゴミ屋敷」といった、直接的な言葉は含まれていません。ただし、実際の対象はゴミ屋敷であるため「いわゆるごみ屋敷対策条例」といった表現が使用されています。
例えば名古屋市の条例の正式名称は「名古屋市住居の堆積物による不良な状態の解消に関する条例」です。
各自治体で、状況や要望に合わせてゴミ屋敷に関する規定を設けているため、名称だけでなく内容や対象となる範囲なども異なり、地域ごとの特性やニーズに対応しています。
市区町村 | 正式名称 | 行政代執行の有無 |
---|---|---|
栃木県宇都宮市 | みんなでごみのないきれいなまちをつくる条例 | 有 |
愛知県名古屋市 | 名古屋市住居の堆積物による不良な状態の解消に関する条例 | 有 |
山口県宇部市 | 宇部市環境保全条例 | 無(違反した事実の内容を公表) |
福岡県田川市 | 田川市人に優しくうつくしいまちづくり条例 | 無(氏名及び当該勧告を公表) |
ゴミ屋敷条例を制定している自治体は「行政代執行」ができる
行政代執行とは、自治体が規則や条例に基づいて実施する手続きの一環です。
例えば、ゴミ屋敷が公衆衛生や公共の福祉に悪影響を及ぼす場合、自治体は所有者に対して清掃を命じる通告をおこないます。指示に従わない場合、自治体は行政代執行を通じて、強制的にゴミの撤去をおこないます。
なお、ゴミ屋敷の住民が行政代執行を中止させたい場合は、裁判所に不服を申し立てる必要があり、簡単には中止できません。
行政代執行によってゴミが撤去された場合、一旦税金が投入されます。しかし、ゴミ屋敷は「個人の迷惑行為に対する執行」の対象となるため、最終的にはゴミ屋敷の住人が撤去費用を負担しなければなりません。
支払いを無視した場合、税金と同じ基準で差し押さえなどの行政処分が実施される可能性もあります。平成27年に京都市でおこなわれた行政代執行に関する資料をご紹介しますので、参考にしてください。
行政代執行までの対応
・ 条例施行以降126回訪問し、61回接触を行い、自主的な解決を目指した。
・ 接触の際は清掃・防火の指導に加え、清掃への協力や健康相談(血圧・脈拍測定、熱中症予防の啓発等)、各種福祉制度の情報提供を行う等により、人間関係の構築を図り、支援を基本として取組を進めてきた。
行政代執行の実施
・ 平成27年11月13日に、新聞や雑誌等7.5立方メートル分(45Lのごみ袋で約167袋相当)の堆積物を本市職員が直接撤去した。
引用元:本市におけるいわゆる「ごみ屋敷」対策について
ゴミ屋敷条例に基づいた市役所の対応の流れ
市役所などの自治体へ相談すれば、ゴミだけでなくゴミ屋敷の住人が抱える本当の問題にも対処できる可能性があります。
条例が制定されている自治体での、一般的な対応を見ていきましょう。
ゴミ屋敷に調査が入る
ゴミ屋敷を把握できていない自治体に多いのは、住民からの訴えが入って調査が開始されるケースです。苦情や相談を確認し、地域住民にゴミ屋敷周辺のヒアリングがおこなわれます。
その後、現地調査をおこないゴミの蓄積状況や建物の状態、所有権、住人の人間関係や親族関係を調査します。
ゴミを片付ける支援や指導をおこなう
調査内容や住人からの聞き取りをもとに対処の方針を決定し、改善を促すための指導がおこなわれます。また、ゴミ屋敷の住人の中には、経済的な苦境や心身の健康問題を抱えているケースも見られます。
指導や助言がうまく進まない場合には、生活改善の見守りや相談など、包括的なサポートが必要です。貧困層の場合、片付けに必要な経済的支援や援助をおこなっている自治体もあります。
ゴミ屋敷の住人にゴミ撤去を指示する
自治体の指導を無視して、状況が改善されなかったり、支援を受け入れなかったりする場合、文書による勧告がおこなわれます。
また、調査に協力せず勧告にも従わない場合には、関係者の氏名などが公表される自治体もあります。しかし、この段階までは、強制的な措置は実施されません。
最終手段として行政代執行による強制撤去をおこなう
何度も指導がおこなわれても従わず、ゴミ屋敷が放置されている場合には、行政代執行が実施される可能性があります。
行政代執行に至るまでの一連の手続きの中で、学識経験者の意見を尋ねるための審議会が設けられるケースもあります。ただし、行政代執行までの制定されていない自治体もありますのでご留意ください。
ゴミ屋敷条例がない自治体もある
ゴミ屋敷条例がない自治体も存在します。一部の自治体では地域住民がゴミ屋敷に悩まされており、迅速な対応が求められる中で、適切な条例の制定が必要になることがあります。
しかし、全ての自治体でゴミ屋敷の問題が顕在化しているわけではなく、他の緊急課題を優先する自治体もあります。
現在、ゴミ屋敷に直接的に対処する専用の法律は存在しないため、取り締まりをおこなう際は「廃棄物処理法」や「道路交通法」などの現行法を根拠にする必要がありますが、これらの法律をゴミ屋敷に適用するのは困難が伴います。
つまり、ゴミ屋敷条例が無い自治体はゴミの強制撤去などをおこなえないのが現状ということです。
環境省の調査による令和4年度のゴミ屋敷条例の実態
環境省の調査による「令和4年度「ごみ屋敷」に関する調査報告書」の、ゴミ屋敷条例の各自治体の取り組みを紹介します。
制定済み | 101市町村(5.8%) |
制定予定あり | 5市町村(0.3%) |
制定検討中 | 50市町村(2.9%) |
制定予定なし | 1,585市町村(91.0%) |
行政機関による措置の内容 | 制定している市町村数 | 措置の適用件数 |
---|---|---|
調査 | 84 | 903 |
助言・指導 | 81 | 719 |
勧告 | 79 | 22 |
命令 | 69 | 13 |
公表 | 47 | 4 |
代執行 | 47 | 5 |
支援 | 25 | 111 |
罰金・科料・過料 | 21 | 0 |
その他 | 13 | 26 |
表を見るとわかる通り、ほとんどの自治体で条例が制定されていません。
ゴミ屋敷条例を制定していない自治体に住んでいる場合はどうすればいい?
ゴミ屋敷条例が制定されていない自治体が圧倒的に多い現状ですが、条例が制定されていない自治体に住んでいる場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
ゴミ屋敷条例が制定されていない自治体での対処法をご紹介します。
自治体の窓口へ相談する
条例がない自治体の場合、ゴミの強制排除や直接的な支援は難しいでしょう。しかし、その地域に住む住民の生活向上のためにゴミ屋敷を訪れるなど、問題解決に向けた取り組みがおこなわれます。
例えば「町内会等地縁団体などからの声掛けや見守り」「包括支援センター等との連携による生活習慣の改善に向けた訪問指導」などです。
ゴミ屋敷で悩んでいる場合は、まずは自治体に相談し意見を伝えてみましょう。問題解決に向けてのアドバイスやサポートをしてもらえる可能性があります。
危険を感じたら消防署に相談する
ゴミがあふれて危険な状態になっている場合は、消防署に相談しましょう。ゴミには可燃物も多く含まれているため火災のリスクが高く、近隣住宅にまで延焼する可能性もあります。
もし火災が発生した場合には、消防が速やかに出動できるよう、ゴミ屋敷の位置を知らせておきましょう。また、消防署は火災を未然に防ぐための活動もおこなっています。
火災の危険性があると相談すれば、見回りを強化するなどの対策をしてくれる可能性があります。ただし、消防法に違反していない限り、消防署によるゴミ撤去は実施されない点は覚えておきましょう。
しかし消防署から住人に対して、放火や火災の危険性について説明などはしてくれます。ゴミ屋敷の敷地内に危険物などが放置されていて火災が起きやすいと見なされれば、立入検査による指導がおこなわれ、指導は火災の原因がなくなるまで続きます。
賃貸物件の場合は管理会社に報告する
多くの賃貸契約書には「周辺住民に迷惑をかけてはならない」といった規定が含まれており、これに基づいてゴミの撤去や入居者の退去を促せます。
また、オーナーや管理会社が、所有している物件がゴミ屋敷になっていると気づいていないケースが多くみられます。
ゴミ屋敷になると劣化が進み資産価値が下がる可能性が高いため、迅速に対処してもらえるでしょう。賃貸物件だった場合は、管理会社にできるだけ早く被害状況を伝えましょう。
まとめ:ゴミ屋敷条例と自分が住む市役所の対応を把握しておこう!
ゴミ屋敷に関する問題は、近隣住民の生活環境に悪影響を及ぼす深刻な問題です。
対策として「ゴミ屋敷条例」が各自治体により制定されていますが、条例の名称や内容は自治体によって異なります。「ゴミ屋敷条例」は、ゴミ屋敷の問題を解決し、公衆衛生と公共の安全を守るために重要な役割を果たしています。
だからこそ、自分が住んでいる地域の市役所がゴミ屋敷問題に対して、どのような対応をしているかを把握しておく必要があります。
しかし、全国的に条例が制定されているわけではなく、条例がない自治体では、ゴミ屋敷の問題に対して直接的な法的措置を取ることが難しい状況です。そのため、ゴミ屋敷で悩む住民や近隣住民は、自治体の窓口で相談することが重要です。
最終的には、ゴミ屋敷の問題は地域全体で取り組むべき課題です。自治体、住民、関係機関が協力し合い、適切な対策を講じることが、解決への第一歩となります。もし、あなたの住む地域にゴミ屋敷がある場合は、遠慮せずに自治体(市役所)に相談し、問題解決に向けた一歩を踏み出しましょう。
自分の家がゴミ屋敷化している場合は、ゴミ屋敷の片付けを請け負ってくれる不用品回収業者のサービスを利用するのがおすすめです。